超高速超広帯域光波に関する研究

千兆分の1秒を1フェムト秒と呼びますが、そのような非常に短い時間のオーダーの「光のかたまり(これをパルスと呼びます)」を発生する超短光パルスレーザーを用いる研究を行っています。 これは人類が手にしている最も高速な技術です。 実験ではチタンサファイアレーザーを使用して数10フェムト秒の光パルスを発生させ、その特性の計測を行います。 また、この光パルスをいろいろなファイバーに伝搬して、光の色の分布(これをスペクトルといいます)が広帯域された超広帯域光波を発生させます。 特にフォトニック結晶ファイバーに伝搬すると大きなスペクトルの超広帯域化が起きます。この広帯域化が起きる仕組みをファイバー非線形伝搬プログラムによってシミュレーションします。 またこのようなスペクトル広帯域化のためのフォトニック結晶ファイバーの設計をコンピュータプログラムで行っています。 さらに超広帯域光波の応用として、微小な試料を非破壊で構造や組成をマイクロメートルオーダーで知ることができる非線形顕微分光装置の試作を行っています。 また、試料の断面を非破壊で測定できる光コヒーレンストモグラフィー装置の試作も行っています。 これらの応用においてはフォトニック結晶ファイバーからの光波を波形整形することによってそのスペクトルを応用に最適化することも行っています。

超短光パルスの計測

超短光パルスの計測装置としては周波数分解光ゲート装置(FROG)および相互相関型の周波数分解光ゲート装置(XFROG)が試作されており、それらを用いて計測しています。 超短光パルスは時間的に大変短いので、光を電気信号に変換して直接オシロスコープで見ることはできません。そのため光そのものをゲートとして利用しています。 具体的には測定される光パルスを2つに分割し、一方に時間的遅延を与えてから2つのパルスを第二高調波発生用の結晶に集光し、発生する第二高調波信号スペクトルを解析することにより光パルス波形を求めています。 最近、単純な光学系で超短光パルスの振幅と位相が計測可能な分散スキャン法が提案されています。本研究室ではその試作と評価を行っています。

超短光パルスの整形

超短光パルスは時間的に大変短いので、電気的に直接波形を変えたりすることはできません。 しかし光パルスを構成するいろいろな光波の位相を空間位相変調器という装置で制御することにより波形を変えることが可能です。 例えば光ファイバー中を光パルスが伝搬するとパルス幅は太くなってしまいます。これを波形整形することにより元のパルス幅のパルスに戻すことが可能です。 この他に、元のパルスと同じ形のパルスが列となったパルス列を作ることもできます。どのような形のパルスを形成するかは応用によって決まりますが、このパルスを形成するための位相を求める必要があります。 そしてこの位相を求めることはコンピュータによる最適化プログラムを用いて行っています。これをさらに発展させて、目的とする波形の特性を実験で測定し、 その信号をフィードバックして位相を求める研究も行っています。

空間光変調器を用いた波形整形装置

光パルス非線形伝搬計算

光パルスがファイバーに閉じ込められると、その非線形光学効果のためにスペクトルの広帯域化が起きます。 これがなぜ起きるかを解明するため、非線形伝搬方程式を導出し、その数値計算を行っています。 特にフォトニック結晶ファイバー中では伝搬定数の波長依存性(これを分散特性といいます)が通常ファイバーとはかなり異なるため、例えばソリトンの発生と伝搬などの大変興味ある現象が見られます。 これは応用によっては大変有用なので、その積極的な利用について研究しています。

フォトニック結晶ファイバーの設計と評価

フォトニック結晶ファイバー(PCF)とは、光波の伝搬する方向に空孔が配列されたファイバーです。これは大きくニ種類に分類できます。 一つは光の伝搬する部分(コア)がガラスとなっているもので、これは通常のファイバーと同じように屈折率の高い部分に光が閉じ込められます。 このとき空孔の配置を工夫すると、伝搬定数の波長依存性(これを分散特性といいます)をかなり自由に変化させることができます。 そしてこれにより超広帯域光波発生に非常に適した設計や、通常の分散と逆の分散を持つ分散補償ファイバーの設計ができます。 もう一つは光の伝搬する部分が空気となっている中空フォトニック結晶ファイバーで、これは規則的な空孔部分による光波の干渉によって空気の部分に光が閉じ込められて伝搬するものです。 これは高エネルギーの光パルスの伝搬に使用できると期待されています。本研究室では超広帯域光波発生用フォトニックファイバーの設計と評価を行っています。 また分散補償用のフォトニック結晶ファイバーや中空フォトニック結晶ファイバーの設計を行っています。最近、中空ファイバーの一種として、反共鳴ノードレスファイバー(NANF)が開発されており、 高出力レーザー光伝送用ファイバーとして期待されています。本研究室ではその設計と評価も行っています。

超広帯域光波発生用PCFの評価
フォトニック結晶ファイバー(PCF)の設計

非線形顕微分光

超短光パルスはピークパワーが大きいため、光学的な非線形効果を観測するのに大変適しています。そしてそれを顕微鏡で用いると、試料の構造を高い分解能で観察することができます。 このとき代表的なものとして、ニ光子蛍光顕微鏡があります。本研究室では、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)顕微分光装置の試作を行っています。 これはレーザーの元の光パルスと、それをフォトニック結晶ファイバーに伝搬させて波長が変化した光パルスを試料に同時に照射する構成となっており、 これらの光パルスの周波数差が試料中分子のラマン振動周波数に一致したとき、高強度の信号光が発生するというものです。このとき信号光の波長から、分子の種類を特定できます。 CARS顕微分光は分解能が高いことの他にも信号がコヒーレントで強く、蛍光のある試料でも測定可能などの特徴があります。 本研究室では波形整形装置も組み合わせ、なるべく単純な構成で広帯域のラマン振動が正確に測定できる装置の研究を行っています。

超広帯域光波を用いたCARS顕微鏡分光

超高速ディジタルホログラフィー

超短光パルスは、フェムト秒(1千兆分の1秒)オーダーの時間分解能で超高速現象の画像化を行うことが可能です。また、レーザーのようなコヒーレントな干渉性の高い光を用いると、 光波の振幅と位相をホログラムとして記録することができます。このホログラフィー技術を用いると、現象の3次元画像を記録することが可能です。私たちの研究室では特に超短光パルスを分散光学系に 通して発生させたチャープパルスを用いて、超高速現象の複数枚のホログラム画像をシングルショットでディジタルカメラに記録する超高速ディジタルホログラフィーの研究を行っています。

チャープパルスディジタルホログラフィー